FIREして初めて気づいた資産取り崩しの難しさと、私が選んだ現実的な対策

地方FIRE生活

【結論】効率だけでなく「続けられる仕組み」と「心の安定」を設計することが、FIRE後の成功を左右します。

  • 理論は正しいが現実は違う
    インデックス投資は理論的に最適解に近い一方、下落相場での取り崩しには大きな心理的負担が伴います。
  • 4つの軸で自分仕様に
    「投資効率 × ライフステージ × リスク許容度 × ライフスタイル」の掛け算で、自分だけの“続けられるポートフォリオ”を構築します。
  • 労働収入も資産運用の一部
    フルFIREに固執せず、薄く長い労働収入を取り入れることで、暴落時のメンタルダメージを大きく軽減できます。
  • 毎月分配型の戦略的活用
    例:インベスコ 世界厳選株式<H無>は「自動利確マシーン」として機能し、感情ブレを抑えつつ安定的なキャッシュフローを確保します。
  • 3大リスクへの備え
    暴落・停滞・インフレを想定し、本文で具体的な着眼点と参考データに基づく対策を提示します。

取り崩しに迷う「リアルな瞬間」

株式は長期で見れば右肩上がり――それでも、年に数回は大きく下落します。たとえば会社を退職する直前の2024年8月にも気の抜けない下げがあり、2025年4月の「トランプ関税ショック」では一日のうちに急落が起きました。こうした急変は、理屈を知っていても心をざわつかせます。

さらに私たちは日本円で生活しています。米国株を中心に運用していると、円高局面では株価が堅調でも円換算の資産が目減りして見えることがあります(極端に言えば、為替が5円動けば1,000万円相当の外貨資産で約50万円の評価差が出る計算です)。

そんな日に証券口座を開くと、先月よりも数百万円少ない評価額が目に入ります。ニュースは「景気後退懸念」「利上げ長期化」といった見出しで埋まり、生活費の引き落としは数日後。頭では「必要なときに必要な額だけ取り崩せばよい」とわかっていても、その売却ボタンを押す指は重くなります。理論と現実の間に横たわるこの溝を、どう埋めるのか――それが本稿のテーマです。

理屈と感情のギャップ──「最適解」が実行しにくい理由

インデックス投資の王道は明快です。長期・分散・低コストで積み立て、FIRE後は「必要な時に必要な額」を計画的に取り崩す。過去データに基づく4%ルールやモンテカルロシミュレーションでも、有効性は何度も示されてきました。

ただし、シミュレーションは投資家の感情を織り込めません。暴落や長期停滞の真っ只中で、評価額が減っていく現実を見ながら計画通り売る行為は、想像以上に難しいのです。

FIRE後は勤労所得が薄く、資産の増減が生活の安心に直結します。だからこそ、感情のゆらぎを前提にした仕組み化が必要だと考えます。

投資方針を決める4つの判断軸

FIRE後の資産運用や生活設計を考える際は、以下の4つの切り口で整理すると、抜け漏れなく自分に合った戦略を立てやすくなります。

1. 投資効率

  • 手数料水準(低コスト運用かどうか)
  • 期待リターン(値上がり益重視か安定収益重視か)
  • 運用方針(複利最大化型かインカム重視型か)

2. ライフステージ

  • 独身期/子育て期/子供独立後/セカンドライフ
  • 各段階における必要現金需要(教育費・住宅費・医療費など)

3. リスク許容度

  • 評価額の大幅下落に対する精神的耐性
  • 下落時の生活維持能力(収入源の有無・固定費構造)

4. ライフスタイル

  • 就労形態(フルFIRE/バリスタFIRE/副業ありFIRE)
  • 生活の価値観(旅行・趣味の優先度、支出のメリハリ)

この4軸の掛け合わせこそが、あなたにとっての「続けられる最適解」を導きます。数字の上での“最適解”が、必ずしも心の平穏につながるとは限りません。資産と心のバランスを取ることが、FIREを長く楽しむための鍵です。

ここからは、この4軸を踏まえて大きく2つのスタンス──効率派安定派──の特徴を整理します。

効率派と安定派、それぞれの特徴

効率派(将来の資産最大化を優先)

  • 安定収入がある現役期、教育費など大型支出が控える段階で親和的。
  • インデックス中心で株式比率高め、分配金は再投資して複利を最大化。
  • 暴落時も売らずに保有を続ける冷静さと、生活費を賄う現金フローの裏付けが鍵。

安定派(今の生活と心の安定を優先)

  • 子育て終盤〜終了後、またはFIRE後で使う喜びや心の安定を重視。
  • 高配当・毎月分配・現金比率を高め、月次キャッシュフローの見通しを安定化。
  • 最大効率には劣る可能性があるが、継続可能性とメンタルの安定で優位性。

労働収入も「ポートフォリオの一部」

FIREは「働かないこと」が目的ではなく、人生の選択肢を広げるための手段です。完全に労働収入をゼロにすると、想定外の下落局面で取り崩しが加速し、心理的負担が一気に高まります。

そのため、薄く長く続けられる収入源を持つことを推奨します。月数万円〜十数万円の副業やパートでも、取り崩し額を減らし、資産寿命とメンタルの安定に大きく貢献します。

昇進や昇給を目指さず、必要な時期に必要な分だけ働く「無理のない働き方」が理想です。また、「いざという時にフルタイムで復帰すればよい」と考えていても、年齢や市場環境によっては再就職が容易ではない場合があることも念頭に置くべきです。

労働収入を安全資産のように位置づけると、運用リスクの取り方や分配金への依存度を柔軟に調整できます。

このような収入バランスは2024年以降継続しており、急な相場変動時でも生活水準を維持できていることが確認されています。

インベスコを活用する理由(手数料が高くても買う意味)

毎月分配型は非効率という一般論は承知しています。確かに信託報酬は安くありません。それでも私が「インベスコ 世界厳選株式<H無>(毎月決算型)」を組み込むのは、売却の意思決定を自動化し、感情のブレを抑えられるからです。

  • 自動利確の強み:毎月の分配が「売却ボタン」を押す心理的負担を外部化し、下落時も淡々と現金化を継続できます。
  • 人間心理の弱点補正:下落時に取り崩しを止める/好調時に使い過ぎる、といったブレを機械的に抑制。
  • 特別分配金と口数維持:基準価額が購入時を下回る局面でも特別分配金(元本払戻)により口数は減らない。回復局面ではトータルで成果を評価できます。

もちろん、分配金が将来にわたり必ず維持される保証はありません。ただし、それはインベスコに限らず、あらゆる投資商品に共通する性質です。重要なのは、仮に分配が減っても「自動利確」という仕組みそのものは機能し続ける点です。私はこの継続性にこそコストを払う価値があると考えています。

※基準価額・信託報酬・分配実績の詳細は、インベスコの月報・運用報告書・交付目論見書で公開されています。判断時は最新の数値をご確認ください。

私のポートフォリオ構成

  • インデックス投信:43%
  • アクティブ投信(インベスコ等):28%
  • 現金:13%
  • その他(高配当/カバードコール):残りわずか

また、eMAXIS Slim 全世界株(オルカン)は全額売却し、得た資金580万円のうち100万円を返済、残りは現金へ回しました(最高値更新のタイミングで実施)。直近の総資産は1億1,645万円、借入控除後の純資産は1億0783万円。(2025年8月現在)

FIRE初期は生活費約3年分の現金バッファを確保。現在も“現金=精神的な配当”という位置づけは維持しています。

想定すべきリスクシナリオ(考え方と着眼点)

暴落

想定例:S&P500が50%下落、基準価額が大幅に目減りするケース。リーマンショック(2008年)では米国株がピークから約50%下落し、コロナショック(2020年)でも数週間で30%以上下落しました。インデックス中心の場合、評価額の減少に耐えつつ生活費を取り崩す必要があり、心理的負担は極めて大きくなります。

一方で、ポートフォリオの一部にインベスコや高配当株を組み込んでおけば、減額リスクはあるものの分配・配当によるキャッシュフローを維持しやすく、全額売却による現金化を避けられる局面が増えます。「資産価値は減っているが、生活のキャッシュフローは維持できている」状態をどこまで作れるかが鍵です。

停滞

想定例:株価が5〜10年単位で横ばい推移するケース。横ばい相場ではキャピタルゲインでの取り崩しが難しく、インデックスの売却だけに頼ると資産の長期目減りにつながります。分配・配当のキャッシュフローを組み合わせることで、評価額を減らしにくい運用の“息継ぎ期間”を確保できます。

停滞局面での着眼点(実績ベースの目安)

  • 直近の税引後分配金は約52万円/月(単純年換算で約620万円)。相場・為替・方針で変動するため、全額生活費に依存しない設計が前提。
  • 薄い労働収入を併用して、評価額の取り崩しを最小化。

インフレ

想定例:年率3〜5%のインフレが数年間続くケース。現金の購買力が低下するため、増配・増分配の可能性がある資産をポートフォリオに含める意義が高まります。もっとも、利上げで株・債券が打撃を受ける可能性もあるため、現金やコモディティ等とのバランスが重要です。

インフレ局面での着眼点

  • 年4%のインフレが5年続くと、現金の実質価値は約18%低下。現金厚めは安心だが実質減価に注意。
  • 配当・分配の増加が物価上昇の一部を相殺し得るため、収入も物価に連動して増える仕組みの織り込みを検討。

あなたのタイプ別・運用のヒント

効率重視タイプのあなたへ

  • 現役で安定収入があり、これから大きな教育費が控えている方
  • 暴落時にも冷静に「売らない」ルールを守れる自制心を持っている方
  • 毎月の分配よりも、複利による資産成長を最優先したい方

このタイプの方は、S&P500やNASDAQ100などをコアに据えた運用が向いています。

安定重視タイプのあなたへ

  • 子育てが終盤〜終了し、FIRE後で心の安定を第一に考える方
  • 毎月のキャッシュフローを可視化し、精神的余裕を確保したい方
  • 毎月分配型+高配当ETF+現金の組み合わせで、継続的な収入を重視したい方

このタイプの方は、分配金や配当で生活費の大部分を賄い、資産評価額の変動を気にしすぎない設計が有効です。

どちらのタイプにも共通して役立つのが、以下のような基本ルールです。

  • 生活費6〜24か月分の現金バッファを保持(家庭状況に応じて調整)
  • 暴落時は分配金・配当で生活費を賄い、インデックスの売却は最小限に
  • 取り崩し率は「前年末評価額の◯%」など固定ルールを事前に決め、恣意的に変えない

私はS&P500をコアに据えつつ、インベスコや高配当ETFなどの毎月分配型資産も組み合わせています。これにより、資産成長と安定的なキャッシュフローの双方を確保し、効率と安心感のバランスを意識した運用を実践しています。

まとめ──効率だけでなく、感情と仕組みを織り込む

FIRE後の運用は、投資効率だけでは語れません。相場の荒波と日々の生活、そして人間の感情――それらに向き合うために、投資効率 × ライフステージ × リスク許容度 × ライフスタイルの掛け算で“続けられる戦略”を設計することが不可欠です。

私は、S&P500+インベスコ(毎月分配)+高配当ETF+現金というハイブリッド構成で、成長性と安定性、さらには心理的な安心感のバランスを取りにいきました。毎月分配は“非効率”と評されがちですが、私にとっては取り崩しの自動化=継続性の担保という意味で、手数料を払ってでも得たい価値があります。

暴落・停滞・インフレに備え、キャッシュフロー重視の仕組みを整える。必要に応じて薄く長い労働収入を取り入れる。これらは、FIREを“理論上の最適解”から、現実に続けられる最適解へと近づける実務的な工夫だと考えています。