FIRE(早期リタイア)を達成し、自由な時間を手にしたものの、次に直面したのは「現金を減らせない」という想定外の心理的な壁でした。
前回の記事では、働かない自由を手に入れる喜びについて触れました。今回はその裏に潜む、“現金への執着”というもうひとつの側面についてお話しします。
FIRE後に意識した「現金3年分ルール」
無職生活に入るにあたり、私は常に生活費の3年分の現金を保有していました。これは、株価が暴落した際にも取り崩しを避け、資産寿命を守るための“防御戦略”でした。
実際、現金を潤沢に保有していたことで、FIRE初期の不安定な相場でもメンタルを保つことができました。
バリスタFIREに移行しても抜け出せない「現金信仰」
2025年4月からはバリスタFIREとして一部労働を再開。現在は労働収入と分配金だけで生活費を上回る状態にあります。
それにも関わらず、「現金を投資に回す」という決断がなかなかできません。
なぜ現金を減らせないのか?4つの心理バイアス
この現象には、いくつかの心理的バイアスが関係しています。
① 喪失回避バイアス(Loss Aversion)
プロスペクト理論によれば、人は「損失の苦しみ」を「利益の喜び」よりも強く感じます。一度手にした“現金=安心”を失うのが怖いのです。
② 現状維持バイアス(Status Quo Bias)
現金3年分という安心した状態が「デフォルト」となり、それを崩すことが「リスク」に感じられる。
③ サンクコスト効果(Sunk Cost Fallacy)
今まで貯めてきた現金を「投資に使う」こと自体が、苦労や安心感を無駄にするように感じてしまいます。
④ 心理的安全性への依存
無職という状況下で築いた「現金こそが最後の砦」という安心感に依存してしまい、労働収入があっても手放せない。
この状態に名前をつけるなら?
私自身のこの状況は、造語で言うと「キャッシュ依存症(Cash Comfort Dependence)」、あるいはより正確に言えば、
「リスク回避強化症(Enhanced Risk Aversion after Financial Independence)」とも呼べるでしょう。
FIRE後に一度味わった“現金の安心感”が、かえって資産効率の最適化を妨げる要因になっているのです。
私の理想とする状態とは
最終的に目指しているのは、「分配金だけで支出をカバーできる状態」です。現在、資産の約35%を高配当投資信託に入れていますが、十分な安心には至っていません。
そのため、eMAXIS Slim オールカントリーを売却し、その資金をインベスコ世界厳選株式オープンや高配当ETFに回すことを計画しています。
現金比率のルール化と段階的な移行
現在、現金比率は「3年分 → 約2.5年分」にまで減りましたが、まだ「安心」を手放せません。
今後は以下のルールで現金管理を行います:
- 生活費の1年分を下回ったら再投資はストップ
- それを上回る部分は贅沢費 or 再投資に充当
また、分配金があと月20万円増えれば「安心ゾーン」に到達すると考えています。
無理のない範囲で進める投資戦略
一気にポートフォリオを切り替えるのは抵抗があるため、段階的に高配当投信へ移行していきます。
例えば:
- まずオルカン(オールカントリー)を一部売却
- 手元の現金と組み合わせて高配当投信へ移動
- 分配金が目標額に達したら再びキャッシュ比率を柔軟化
会社員を辞めて初めてわかった「現金の意味」
資産形成期には「現金は悪」と感じていましたが、FIRE後はその見方が180度変わりました。
現金はリターンこそ生みませんが、心の安心を生みます。
それが“精神的な配当”であることに気づけたことも、大きな学びです。
FIREで得た“自由”と引き換えに抱える心の揺らぎ
FIREは「働かなくても生きられる自由」を手に入れる一方で、社会的役割や収入の不確実性という新たな不安も生まれます。
私自身、会社員という肩書きを失い、毎月の収入が自動的に入ってこない生活のなかで、「本当にこのままでいいのか?」「この自由にどこか責任を感じてしまう…」という感覚に襲われることが何度もありました。
この点については、以前の記事「1億円FIREから1年で気づいた「働かない自由」の落とし穴と再起の選択」でも詳しく綴っていますので、併せてご覧いただければと思います。
“自由であること”はとても価値あるものですが、それを支えるための精神的な支柱や、収入の仕組みが必要なのだと実感しています。
💡 FIRE後の「現金バイアス」への対処法まとめ
- 現金比率を段階的に見直す(半年分ずつ投資に回すなど)
- キャッシュフロー表や生活シミュレーションを活用して不安を見える化
- 「現金=目的」ではなく「安全の手段」と認識を再構築
- 「労働=不自由」ではなく「一時的なバッファー」と捉える視点の転換
- FIRE後の生活設計は変化していく前提で柔軟に構える
まとめ:FIRE後も「最適解」は変わり続ける
FIRE後における最適な現金比率や投資配分は、環境やメンタル、ライフステージによって変化していきます。
現金に過度に執着せず、しかし無理に捨て去ることもなく、「自分にとってのちょうど良い安心と資産効率のバランス」を見極めること。
それが、FIRE後を豊かに、そして長く楽しむための鍵なのだと、日々感じています。