私は2024年に会社を退職し、FIRE生活をスタートしました。
しかし、実際に体験してみて痛感したのは「FIREは資産額の達成だけで簡単に決断すべきものではない」という現実です。
退職した瞬間に直面したのは、資産の目減り、不安定な収入、そして新しい人間関係の難しさでした。
お金さえあれば自由に生きられると思っていた理想は、現実の前ではあっけなく崩れていきます。
はじめに:FIREの落とし穴は「辞めた後」にやってくる
近年注目を集めるFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期退職)。
資産形成や4%ルール、インデックス投資の情報は豊富ですが、「FIRE後にどう生きるか」については意外と語られていません。
特に「目標資産に到達したから仕事を辞める」という判断は、多くの人にとって危険をはらんでいます。
なぜなら、一度仕事を辞めると、ストレス耐性・社会適応力・労働市場での立ち位置を大きく失ってしまうからです。
この記事では、私自身の実体験をもとに「FIREを決断する前に知っておいてほしい現実」を、資産・仕事・人間関係の3つの視点からお伝えします。
実体験:FIRE直後に直面した「現実」
ブラックマンデーと同時に訪れたFIRE生活
私が会社を退職したのは2024年8月。タイミング悪くその月は「令和のブラックマンデー」と呼ばれる大暴落が発生し、資産は大きく目減りしました。ポートフォリオも当時は自社株偏重・分配金ゼロ・現金比率わずかというリスクフルな状態。正直なところ、「このまま無職で生きていけるのか?」という不安に押しつぶされそうでした。
一時的な労働復帰と再びの挫折
不安から、2024年9月後半より業務委託の形で2か月だけ働くことにしました。しかし…
- カルチャーや人脈の違い
- 仕事への愛着の欠如
- 「何のために働いているのか?」という疑問
これらが重なり、結局2か月で契約終了。「仕事に戻るのはこんなに難しいのか」と痛感しました。
相場低迷と増える出費
その後半年近く無職生活を続けましたが、2025年前半の相場は低調。加えて…
- 健康保険・年金・住民税
- 子どもの歯科矯正
- 自宅メンテナンス
- 車の買い替え
これらが重なり、資産は加速度的に減少。FIRE生活は決して「悠々自適」ではないことを身をもって知りました。
労働復帰の現実:会社員時代の耐性は戻らない
久々の仕事復帰
2025年4月からは、知人の紹介でプロジェクトに参加。半年契約で労働収入を得られるようになり、条件面も恵まれていました。しかし、現実は甘くありませんでした。
新しい人間関係は想像以上にハード
- 利害の絡む関係性
- 腹の探り合い
- 周囲の出世レースや足の引っ張り合い
私は出世レースに全く関心がありませんが、組織に属しているとどうしても周囲はその空気を纏っています。結果として、その雰囲気に巻き込まれたり、対立構造の余波を受けたりせざるを得ません。新しい環境での人間関係は想像以上にハードであり、「ここで頑張る意味はあるのか」と自問する日々でした。
「我慢すれば稼げる」は限界がある
確かに我慢すれば働けます。しかし、FIREを経験した後の自分は、会社員時代のような「粘り」や「ストレス耐性」が明らかに低下していました。一度、無職やFIRE生活を経験すると、心身ともに「もう無理して頑張らなくてもいい」という方向に傾いてしまうのです。
FIRE後に再就職を難しくする3つの壁
私が感じた「再び労働に戻るときの弊害」は以下の3つです。
- 新しい人間関係の形成の難しさ
- 仕事への熱量やモチベーションが持続しにくい
- 再びFIRE生活に戻る判断が難しくなる
この3つは、資産額だけではカバーできない「心理的・社会的ハードル」でした。
会社員であることのメリット
FIREを急ぐあまり見落とされがちですが、会社員生活そのものが持つメリットも多く存在します。
1. 長く勤めることで得られる人脈
会社員として働く中で自然と形成される社内外のつながりは、FIRE後にゼロから築こうとしても簡単には得られません。
- 社内外ネットワーク:同僚、上司、取引先、顧客など
- 信頼の積み重ね:長期的に共に働いた経験があるからこそ築かれるもの
私自身も、退職後に再び仕事の声をかけてもらえたのは、会社員時代に培った人脈があったからです。
2. 社会保険・年金の安心感
会社員の最大の強みのひとつが社会保障制度の手厚さです。
- 健康保険:自己負担が軽く、扶養制度もある
- 厚生年金:将来の年金額は国民年金よりも大幅に高い
- 雇用保険:失業時のセーフティネットとして機能
FIRE後に国保や国民年金に切り替えると、この差は実感として非常に大きいです。
3. 慣れた仕事で得られる安心感
長年続けてきた業務には、手順や効率、周囲との連携など「慣れの資産」が蓄積しています。新しい環境でゼロから覚える労力やストレスを考えると、この「慣れた仕事の安心感」は非常に大きなメリットです。
FIREを考えるなら準備すべきこと
では、どうすれば同じ落とし穴にはまらずに済むのか?私の経験から、以下の準備が重要だと考えます。
1. 「会社を辞めない」という選択肢を残す
いきなり退職せず、ポジション変更・異動・雇用形態変更などを検討するのも一手です。ゼロから人間関係を作り直すよりも、慣れた環境で働き方を調整する方が心理的負担は少ないです。
2. FIRE目標資産は「想定の1.5倍」にする
4%ルールは理論上の目安にすぎません。実際には教育費・医療費・修繕費など予想外の出費が続くため、余裕を持った資産設計が必要です。
3. 「別の業界」でライトに働ける選択肢を持つ
同じ業界・同じ働き方で復帰するのは精神的に難しいケースが多いです。むしろ、給与を気にせず新しい業界で緩やかに働ける場所を確保する方が健全です。
FIREは「ゴール」ではなく「通過点」
FIREは資産形成のゴールではなく、ライフステージの変化に合わせた選択肢のひとつです。一度辞めてしまうと、元の働き方には戻れません。だからこそ…
- 段階的に労働時間を減らす
- キャッシュフローを守る仕組みを整える
- 会社員のメリットを最大限活かす
これらを意識することが、長期的なFIRE生活の安定につながります。
まとめ|FIREを決断する前に考えるべき現実と教訓
私の実体験から強く言えるのは、FIREは「資産が一定額に達したら辞めても大丈夫」という単純な話ではない、ということです。
- 資産は相場環境や突発的な出費で想像以上に減っていく
- 仕事を辞めると、社会保障や人脈、慣れた環境という大きな資産を一気に失う
- 再就職しようとしても、新しい人間関係やモチベーションの壁が立ちはだかる
一方で、会社員を続けていれば、安定した収入に加え、人脈や社会保障、慣れた仕事環境といった“見えにくい資産”を守ることができます。辞めて初めて、その価値に気づかされるのです。
だからこそ、FIREを決断する前には、資産・仕事・人間関係の3つをトータルで考え、余裕を持った準備をすることが欠かせません。
FIREは「人生のゴール」ではなく「選択肢を広げる通過点」です。
安易な決断ではなく、現実を直視しながら自分に合ったFIREの形を描いていくことが、後悔しない人生につながるはずです。