TSLYやNVDYといった超高配当ETFが注目を集め始めたのは2023年頃からで、SNSやYouTube、米国の個人投資家コミュニティを中心に話題となりました。特に「月利10%超」という強烈な配当利回りが、FIRE層やキャッシュフロー重視の投資家に強く訴求したことが背景にあります。
海外で人気が高まった理由は以下のとおりです:
- オプション戦略をベースにした革新的なETF設計
- 高配当志向のリタイア層・個人投資家にマッチした収益モデル
- 米国証券会社で簡単に売買できる手軽さ
しかし、その仕組みやリスクについては日本国内ではまだ十分に理解が進んでおらず、誤解を招くケースも増えています。
この記事では、YieldMax ETFの基本構造から他ETFとの本質的な違い、活用シーン、そして注意すべきリスクまで、FIRE層や高配当投資に関心のある方に向けてわかりやすくかつ深掘りして解説していきます。
YieldMax ETFとは?
YieldMaxシリーズは、米国のTidal Financial GroupおよびZEGA Financialが運用するアクティブ型カバードコールETFです。主にテスラ(TSLA)やエヌビディア(NVDA)など高ボラティリティな個別銘柄を対象に、短期オプション(特に0DTE)を用いた戦略で収益を追求します。
主な特徴
- 対象:個別株またはテーマ型ETF(TSLA、NVDA、AAPLなど)
- 戦略:短期コールオプションの売却を継続しプレミアム収入を得る
- 分配頻度:月次
- 利回り:年率70〜100%超の実績も(ただし再現性・継続性は不透明)
- 分配金の一部または多くがROC(元本払戻し)を含む
このように、従来の「配当収入」ではなく、短期的なオプション収益の積み上げによって高利回りを実現する構造がYieldMax最大の特徴です。
年率100%超の分配はなぜ可能なのか?
YieldMaxの高利回りは、対象銘柄に対して繰り返し行う短期カバードコール(Covered Call)戦略、とりわけ0DTE(ゼロデイ・トゥ・エクスパイアリー:当日満期)オプションによって生み出されます。
オプションプレミアムは、対象となる株式のボラティリティが高いほど大きくなります。特にテスラやエヌビディアといった個別銘柄は、ボラティリティが非常に高いため、プレミアム収益を毎日のように得やすいという性質があります。
たとえば、以下のような単純な前提で考えた場合:
- 毎営業日で約0.4%のプレミアム収益を得られると仮定
- 月20営業日 ⇒ 月間8%のプレミアム収益
- 年間で複利的に積み上がれば、100%を超える水準に
重要な留意点
ただし、こうした利回りはあくまでプレミアム収益ベースであり、資産の増加とは別物です。また、オプションがITM(イン・ザ・マネー)で権利行使されれば、株式の上昇余地を失うため、トータルリターンは制限されることになります。
さらに、YieldMaxの分配金の多くはReturn of Capital(ROC:元本返還)に該当し、実質的には保有資産を取り崩して配っている場合もあります。これにより帳簿上の分配金は高く見えても、純資産は徐々に減っていく可能性がある点は必ず押さえる必要があります。
他の高配当ETFとの比較
REXシリーズ(AIPI/FEPI/CEPI)との違い
REXシリーズは、AI・エネルギー・金融などのテーマ型インデックスに対してカバードコール戦略を組み合わせたETFです。ベースとなるのは分散されたETFインデックスであり、YieldMaxのように1銘柄へ集中投資するわけではありません。
そのため、YieldMaxは個別銘柄のリスク・リターンを極大化する設計、REXシリーズはテーマリスクに乗る中で高利回りを狙う分散型設計と言えます。
比較項目 | YieldMax | REXシリーズ |
---|---|---|
投資対象 | 個別株(TSLA, NVDAなど) | テーマ別インデックス(AI等) |
分配戦略 | 短期オプション売却 | インデックス×オプション戦略 |
分散性 | 非常に低い | 中程度(ETFベース) |
利回り | 非常に高い(年利100%超も) | 高め(年利10〜20%前後) |
リスク特性 | 極めて高い | 中〜高程度 |
JEPQ・2865との違い(安定志向型)
JEPQ(JP Morgan Nasdaq Equity Premium Income ETF)や、東証の2865(NASDAQ100カバードコール)は、インデックス全体に対するカバードコール戦略をとるETFです。
これらは個別株ではなく、指数そのものへの分散投資に加え、控えめなプレミアム戦略による安定配当を目指しています。そのためYieldMaxとは設計思想が大きく異なり、長期・安定・インカム重視のコア運用に適しています。
比較項目 | YieldMax | JEPQ / 2865 |
投資対象 | 個別株(集中) | インデックス(分散) |
分配戦略 | 高頻度短期オプション | 月次で安定的にCC戦略 |
分配金 | 非常に高い(年利100%超) | 中程度(年利7〜12%) |
値動き | 激しい | 比較的安定 |
投資の役割 | サテライト資産向け | コア資産に適した設計 |
購入可能な証券会社(現物ETFとして)
2025年6月時点で日本国内から現物ETFとして購入できる証券会社は以下です:
- moomoo証券:TSLY、NVDY、YMAXなど複数銘柄に対応
- ウィブル証券(Webull Japan):AIYY、MSTY、CVNY、YMAX など一部銘柄に対応
※IG証券などCFD口座での取り扱いは現物とは別物です。楽天証券、SBI証券、マネックス証券では取り扱いがありません(2025年6月時点)
どんな投資家に向いているか?
向いている投資家
- 短期的に高いキャッシュフローを狙いたい人
- オプションやカバードコール戦略の理解がある人
- FIRE後のポートフォリオの「ブースター枠」として使いたい人
向いていない投資家
- 高配当=低リスクと誤解している初心者
- 安定した分配を求める人(特に生活費目的)
- 含み損に耐えられず売却してしまう可能性のある人
筆者はどうするか?
現時点では様子見としたいと思っております。利用している証券会社(楽天証券・松井証券・野村證券)で購入できるようになったタイミングで、100万円以内を上限に一部買い付けを検討しています。
それまでは、より分散性が高く一定の分配安定性が期待できるREXシリーズ(AIPI、FEPI、CEPIなど)を活用し、インカム収入の強化を図っていく方針です。
まとめ
YieldMaxシリーズは、これまでの高配当ETFとは一線を画す戦略と設計思想を持つ超攻撃型インカムETFです。その利回りは魅力的である反面、リスクや構造を理解せずに投資すれば思わぬ含み損や元本毀損を被る可能性がある商品でもあります。
インカム投資の中でもサテライト枠として位置付け、JEPQや2865のようなコア型ETFとのバランスを取りながら、ポートフォリオのインカム最大化を図るのが現実的な戦略と言えるでしょう。